最高裁判所第一小法廷 昭和55年(オ)103号 判決 1983年10月27日
上告人
社会福祉法人あさひ事業協会
右代表者代表理事
下原萬亀雄
右訴訟代理人弁護士
吉原英之
被上告人
三宅ときわ
右訴訟代理人弁護士
安部千春
右当事者間の福岡高等裁判所昭和五三年(ネ)第五三五号、同五四年(ネ)第二九二号雇用関係存在確認等請求控訴、同附帯控訴事件について、同裁判所が昭和五四年一〇月二四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人吉原英之の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、上告人において、園児の減少に対応し保母二名を人員整理することを決定すると同時に、被上告人ほか一名の保母を指名解雇して右人員整理を実施することを決定し、事前に、被上告人を含む上告人の職員に対し、人員整理がやむをえない事情などを説明して協力を求める努力を一切せず、かつ、希望退職者募集の措置を採ることもなく、解雇日の六日前になって突如通告した本件解雇は、労使間の信義則に反し、解雇権の濫用として無効である、とした原審の判断は、是認することができないものではなく、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひっきょう、右判示と異なる見解に立って原判決を非難するものであって、採用することができない。
よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中村治朗 裁判官 団藤重光 裁判官 藤﨑萬里 裁判官 谷口正孝 裁判官 和田誠一)
上告代理人吉原英之の上告理由
原判決は、以下述べるとおり、判決に影響をおよぼすこと明らかな法令違背があり、破棄されるべきものである。
一、期間の定めのない労働契約においては、使用者は民法第六二七条第一項により解雇の自由を有するものであり、その解雇権の行使については、成文上労働基準法第一九条第二〇条の制限に服するのみである。権利濫用の一般法理によって、無効とされるのはあくまで、例外的に認定されなければならない。
二、したがって、原判決が、本件解雇について、整理解雇の必要性を認めながら、使用者たる上告人の裁量を無視して、解雇の濫用ときめつけたことは、右法令の解釈および適用を誤ったものといわなければならない。
三、原判決は、上告人が、時期的に切迫した状態の中で、あさひ保育園の設立趣意にそわない職員および勤務状態のよくない職員を基準として被解雇者の選定を行なった点について、何ら判断をしておらず、理由不備の違法があるものというべきである。
四、このことは、原判決が、被上告人解雇後ほぼ一年内に二名の保母が退職した事実のみをとりあげ、退職の理由がその後の交通事故死および発病による場合であって、解雇当時全く予想しえない事態であったことを無視し、単に形式的に退職者募集の手続がなされなかったことをもって、権利濫用と認定していることからも明らかである。
以上